200X年夏、熊本。「私」は20数年ぶりに故郷に帰ってきた。高校生の時に離婚した父親の墓参りをするために。しかし、それだけではなかった。久しぶりの帰郷には、もう1つ大きな目的があった。
方言が心地よく耳に響く。市電が走る懐かしい風景。思わずタクシー降りて市電に乗ってみる。デザインは変わってしまったけれど、シートに腰を沈めると、まるできのうのことのように高校時代の「私」に戻ることができた。
甘酸っぱい思いが去来する。頭の中では走馬灯のように思い出が駆け巡る。
あまりにも長い時間が経ってしまっていた。しかし、どうしても忘れることができないあの夏の日々に決着をつけなければ。そのために「私」は熊本に帰ってきたのだ・・・・・・。
198X年夏、熊本_。高校3年になった慎一は、青春真っ只中にいた。
サッカー部で泥と汗にまみれてボールを追う一方、詩を作る感受性も持ち合わせる、純粋でちょっとシャイなところのある少年である。
慎一には気になる少女がいた。毎朝、自転車で通学する慎一の目を釘付けにしたのは、市電の中で見かける他校の女生徒だった。男なら何とかせにゃ。慎一は、ありったけの勇気を振り絞り、彼女に手紙を手渡した。
慎一の思いは通じた。 2人は交際を始める。愛用の赤いブリヂストン・ロードマンに彼女を乗せて疾走する慎一。青春がはじけ、希望が広がっていた。
つかの間の幸せな時間・・・・・・。しかし、それは長くは続かなかった。
少女は両親の離婚という自分ではどうにもできない流れの中で、悩み苦しんでいた。慎一に不安な気持ちを打ち明けることで、2人の心の距離は縮まっていったが、それとは裏腹に、少女は熊本からはるかに離れた埼玉に引っ越すことになった。
一方、慎一も、幼なじみの自殺を目の当たりにして、人生のはかなさを味わっていた。そんな時、不思議な桃売りの男・剛志と出会った慎一は、桃売りの手伝いをしながら、剛志といろいろなことを語り合った。自分の望む未来とは何かを模索していた。
そして、運命の花火大会の夜。慎一と剛志は、最終の市電に乗っていた。その市電の中である事件は起こった。見て見ぬふりをして、何もしない大人たち。
それを許せない慎一。純粋であるがゆえの行動が、慎一の未来を大きく狂わせていく。 |
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